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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

不眠症になってきた。座敷牢の生活が、二月の余もつづいた。五月雨になる。毎日じとじと雨の音ばかりを聞く。脂のぬけた蒼白い顔にカビが生えかかってきた。

「どうじゃ庄次郎、少しは、考えたか」

叔父は、二ヵ月目で、そこを開けた。懇々と、長談議である。意見されていると、涙が出た。

「やっと、八十三郎の取り做しで、勘当が許された。あの弟に対しても、恥ずかしいと思え」

そんな訳で、庄次郎は、小石川へ復帰がかなった。後で聞けば、榊原と叔父とは、近所交際いもしているし、囲碁仲間だとも分かって、お蔦との媾曳が、榊原から叔父の耳へ、叔父から父の半蔵へ、まるで筒抜けであったのを知り、庄次郎は、手ぬかりを後悔した。

それにまた、帰って見れば、妻の照子は、変りなく、家に働いていた。安心と、意外は、べつものだった。照子が、遺書を書いたのは事実らしいが、井戸へ身を投げた云々は、銖之丞が、懲らしめのため、あの場合の庄次郎を脅かした誇張に過ぎない。

肉親と肉親とは、十日も暮らすと、間の悪さも取れたが、照子とは、よけいに気まずい溝ができた。三ツ指と泣き顔に、庄次郎は、鬱々して、

「お蔦は、どうしているか」