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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

べら棒め! と呶鳴ってやりたいようにむかついてくるのでもあったが、健吉が、今ではかえって同情的に厚意を示しているので、まあと、露八は皮肉も恥も感じない眼ばたきをしていた。

「あまり云うな」

健吉は、女の薄い唇をたしなめて、炬燵から露八の方へ、やや改まって膝を向け直した。

「大小捨てて、坊主にまでなった貴様を、俺は、さっきも云った通りもう責めん。――しかし、許しがたいのは、弟の八十三郎、断わっておくが、あいつは、斬るぞ」

ぎらりと、眸をつよめて、

「――きっと、斬るぞ」

と、言葉をかさねた。

露八、ぶるっと膝がしらを寒くした。人斬り健吉が云うのである。京都へ出て来た用件もほぼわかっているし、渋沢栄一からもいつか道中でそれについては注意されていたことでもある。

「あいつのは、幕府を売り、父を殺し、知己親戚を穽し入れ、罪八ツ裂きにも値する。貴様の破廉恥とは、同じ武士道外れでも、けたが違う。幕臣として俺はあの異端者を斬りに来たのだ。――そしてほぼ在り家の当りもついたところ、この間から河原を流している男が、庄次郎にちがいないと、このお里がいうので、実は其方を招んだわけだが。