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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

三

女にしちゃあ、お吉ッつぁん、指に力があるな」

「いやですよ。おだてては」

「今夜は、稼ぎがあったかね」

「三福亭で、お侍様を三人揉みました」

「それやあ、よかった」

「……旦那」

お吉は、揉みながら、顔のそばへ顔をすり寄せて囁いた。出先でもこんなことをするのだろうと露八はふとその呼吸の香に嫌な顔をした。

「なんだい」

「三福亭のお客様が云ってましたが、土佐の坂本龍馬様が、この十五日に、京都で、殺されましたってね」

「ふむ……」

「ほかに、若いお侍がもう一人」

「それも、斬られたのか」

露八は、勤王党の若い武士が刺客の害に遭ったという話を聞くと、すぐに弟の八十三郎を思ってひそかに気遣うのだった。

別れてから四年にもなるがどうしているだろうか。土州の坂本龍馬と一緒に斬られたというもう一名の方は弟ではないかしらなどと思う。

「……それから、お侍衆の噂では、いよいよ、公方討ちの軍が興って、長州様も、土州様も、薩州様も、また芸州様もこんどは……」

凩でも打つかったように、そのとき、誰か門口の格子によろめいて、大きな音をさせた者がある。そして、

「ここですよ! ここですってばさ! ……。