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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
わるく取ろうとすれば、変に疑われるのがないでもない。
(河合……。奇兵隊の河合といえば?)
ふと、彼は、焼金で頭を突きとおされたように、思い出した。お蔦の顔と、眼の前で今はじめて見たこの男の名を。
じっと、横から睨めつけていた。桂が、何と出るか、出ようによっては、云ってやろう、どうせ、飛ぶと覚悟をした首だ。
「なるほど」
桂は、手紙の束を、河合の手へ返して、
「よく分かった。しかし、誰が、この露八の手紙を、君に、渡したのか」
「踏みこんで、家探しの上、没収して参りました」
「炯眼だな。……だが、その炯眼にしては、まるで無用な、時候見舞だの、移転の報らせだの、質屋のものだの、つまらん物まで、ごったに交じっているじゃないか」
「一応はと、存じて」
「嘘をいえっ!」
「…………」
「河合、これを、貴様の手に預けたのは、お蔦だろう」
「えっ」
露八は、思わず、われを忘れて側から呶鳴った。
「そうだっ!」
河合は、ぱっと躍って、倉の外へ逃げかけた。
「宍戸ッ、斬れっ!」
桂は、入口にいる宍戸へ向かってそう云ったが、その宍戸が前から下す手よりも、後ろから、腕と前身と刃と、いっぱいに伸びるだけ伸ばして袈裟に落とした彼の抜き打ちの方が、迅かった。