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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

それを、ともかく、官民協力で予定額までこぎつけたので、その報告やら開業具体案などの懇談会というわけ。

二時間ほどで、それはすんだ。すぐ配膳となって、新柳の美妓が扇なりに楚々と裳を曳く。

ほどを見て帰る者、ほどよしと見て膝をくずす客、ようやく、中村楼の大広間に、脂粉と酒の香と噪舌が霧のようにたちこめて、絃を呼び、杯を躍らせてきた。

参議、大丞といえば、新政府の厳しい大官たちではあったが、何しろ昨日までは一介の志士であったし、一昨日までは足軽だった人すらあるので、まだあくの抜けないこと夥しい。おいどんと呼ばわるどじょう髭もあるし、吾輩がと肱を張る五ツ紋もある。一人として薩弁か、土佐弁、久留米弁か、訛りのない者はない。そして思いあがった得意さである。

(戦には勝ったかも知らないが、算盤には、どれも青いな)

三井も、小野も、馭しやすしと見たように、乱になった宴席を、眼の隅でにやにや眺めていた。

きれいどころのお座附や余興がほとんどめちゃめちゃになったので、一つど胆をぬいてやれと、それまで、お茶坊主役をつとめていた幇間の連中が、金屏風をとらせて、もう秋ではあったが、揃い浴衣に赤襷で、かっぽれを踊って出た。