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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

「出戻りに、そう、恥をかかせるものじゃございませんよ」

「恥――。馬鹿をいえ。ここへ稽古に来ていた小普請組の息子とかに、熱くなって、さんざ、吾々に惚気ていたこともあるぞ」

「もう、お侍は、こりごり」

「離縁されたか」

「こっちから、してやったんですよ。当節のお武家方は、お口はうまいし、服装は華奢だし、女を買いかぶらせることには、役者衆の上手だから、もう、二本差した男には、金輪際、惚れないことにきめたんですとさ」

「ははは、よくよく、懲りたな。だから、云わんことじゃない。惚れるなら、吾々のような、野暮な用人とか、年老ったお留守居役に、惚れるものだと」

「その、お留守居役様は、また、どこへいらっしても、箒だし」

「こいつめ。ハハハ」

ぞろぞろと、出て行く――

白昼公然と、新道の奥から、出て行くのである。

しばらくすると、また一人、また三、四人と、順々に二階から降りては、帰って行った。その半分以上が、侍なので、庄次郎は、意外に思った。昌平黌と、道場のほかにも、武士が稽古に通うところがあるのを初めて知って、彼は、少し世間を考え直した。

やっと、稽古が、終わったらしい。