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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

二

二

渋沢栄一は、二十二歳だった。武州榛沢村から出てきたばかりで、まだどこか泥くさい田舎出の様子が抜けきれていない。うす菊花石があって、背の低い方だった。この間まで、下谷練塀小路の海保漁村の塾にいて、神田の千葉の道場で撃剣を修業していたらしいが、何か、一身上のことがあって、この一ツ橋家の公用人平岡円四郎の家へ身をかくしていたのであった。

藩邸から一歩も出ないので、退屈しのぎに、道場をのぞきに来る。人あたりがいいので、入江達三郎とも、入懇になり、手すじをみると、出来る。

言語が明晰だ。頭脳がいい。

「若いが、謙譲で、肚ができとる。渋沢氏を、見習いなさい」

そんなわけで、他流だが、客分として、来ればいつも、道場の上席を与えていた。

その渋沢栄一と並んで、道場の模範生だった土肥庄次郎は、藩の近習番頭取、土肥半蔵の長男だった。いつも、鈍々として、竹刀を持っても、間のぬけたところがある。しかし、真面目で、無口で、体は図ぬけて大きく、固肥りという方で、団栗のような眼をもっている。一見豪傑らしいが、その丸っこい眼が、にやっと笑うと、まるで、子どもだ。

「あいつ、やっと、こんどは、皆伝をとるらしい」