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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
(人の品物を、怪しからぬ奴)
腹を立ててみたものの、元々、こっちの悪戯事で、この家に、責任を問う筋目はない、また、それほど大事な品物とも、彼女は考えていないのだった。
でも、庄次郎の当惑した顔に、交際いのような舌うちを鳴らして、
「ほんとに、あの人ったら、しようがないね。――なぜ、喜代ちゃんは、止めなかったのだえ」
「お兄さんに、もし取りに来る人があると困るからって、何度も、そう云ったんですけれど」
お里は、謝って、
「恐れいりますが、その方のお屋敷へ、取りに行っていただけましょうか」
「行くよりほかはない。住居は、どこでござるか」
「分りにくい所ですから、自宅の者に、ご案内させましょう。ほんとに、お気の毒様な」
と、茶の間をのぞいて、
「喜代や――。おまえ、お連れして、差し上げるといい。あんな、依怙地な兄さんだから、また、お前でも尾いてゆかないと、渡して下さらないかも知れないし……」
庄次郎は、救われたような気持と同時に、疋田鹿の子の、下町娘と、歩けることが、ふと、儲けもののように、欣しく感じた。
すると、寝ざめの顔を洗って、ぺたんと、鏡の前に坐っていたお蔦が、