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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
三
「ばか云わっしゃい。役付きもせぬうちから、子でも生まれたら、どう養うか」
「それ、それがわるい。吝嗇というものじゃ。他人に貸す小金ぐらいはある土肥家の跡取り息子、女房子ぐらい、何じゃ。わしから、一同へ頼んでおくが、よい嫁はないか、あったら早速、娶たせにゃいかんで」
「あるがの……よい娘が」
と、椎茸たぼが云った。
「誰?」
「石川主殿様の娘――お照さんというたかの――書家の萩原秋巌様の所で見かけたが、よい娘じゃ、学問がようできる」
「なるほど、石川の娘なら、くれるかも知れぬぞ、半蔵殿と同藩じゃあるしの」
そんな話もあったが、庄次郎は、いっこう気乗りがしなかった。
三
まさかと思っていた縁談を、叔父は、足を惜しまず運んでいた。一月後には、もう、見合いをせいと云うのだった。
庄次郎は、驚いて、
「嫁などは、まだ――」
と、受けつけない返辞をしたが、叔父の鉄之丞は、
「何が、まだじゃ。カビが生えるぞよ」
と、これも、庄次郎の生返辞を、うけつけない。
「二十七にもなって、女が、欲しゅうないなどと云っても、わしは、うなずかん。持て、持て、八十三郎も後口にひかえているに、貴様が、いつまで、部屋住では困る」