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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

「よく考えまして」

「馬鹿じゃの、妻をもち、一家をなし、子孫の計をする、人倫の大道じゃないか。考えることがいるか。痩せ我慢するな」

「我慢では、ございませんが」

「いつまで、独身でいると、そういう風に、卑屈になる。女が欲しいと、なぜ云わん。ま、わしにまかせろ」

と、いったような調子で、いや応、云わせないし、事実、庄次郎も、女の欲しいことは山々だったので、

「では、何分」

我を折ると、

「娶うか。よしよし。善は、いそげだ、早速がいいぞ。先方は、いつでも、見合いをすると云うが、何日がいいかの」

「見合いには、及びません。叔父上のお目鑑で」

「そうはいかん。見て、損はないぞ」

「娶うと、決めた以上は」

「後になって、不服は云わぬか」

「申しませぬ」

「ならば……よかろう。いや、貴様も、存外、偉いところがある。女房など、見て、わかるものじゃなし、娶ったが勝負、籤をひくも同じこった。じゃ、わしが何もかも一任されよう」

話は早い。

そういうことにかけて、半町人肌の叔父は、気さくで、親切で、苦労人だった。

結納、日どり、すらすらと運んで、婚礼は、すず風の立ち初める、秋の九月と決まった。