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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

闘鶏

一

つかつかと、大股に歩いてきた。いきなり土足を庄次郎の背へかけると、ぐいぐいと踏み躙って、

「馬鹿っ、大馬鹿者。――その面は何じゃ、その面は」

誰の足だか、庄次郎には、分らない。

闘鶏

一

「不行跡にも、ほどがある。それでも、おのれは武士か、人間か」

草履の緒の切れるまで、土足が、庄次郎の尻を蹴った。

ほどを見て、榊原健吉が、

「もう、やめい。折檻は、それくらいにして」

「いや、こんなことでは、腹が癒えぬ」

骨ばかりになった扇子が、顫える手に掴まれていた。青筋の走った顔を、そっと見上げると、それは何と、叔父の小林鉄之丞ではないか。

「面目次第もありません」

庄次郎は、額を摺りつけているよりほか策がなかった。

「面目ない? ……こらっ庄次郎、面目などと人なみな量見が、貴様にもあるのか。あるなら、父親の苦慮、新妻の嘆き、わしの立場――ひいては藩侯のお名をも汚しおる昨年来のふしだらを、少しは、弁えおろう」

「は、はい。重々」

「腹を切れ」

「…………」

「貴様が切らなければ、わしが切るぞ。嫁の里方たる石川主殿へ、何と、顔向けができると思う」

「…………」

「これを見ろっ」

叩きつけるように、鉄之丞は、彼の前へ何か投げやった。