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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

「な、なにをもって、左様な無礼を云うか。ただは、おかんぞっ」

「面白れえ」

蟇が、もろ肌を脱いで、守宮のように、玄関へ寝た。

「どうにでもしろッ、やいっ、斬るなら斬れ。骨拾いは、百人が二百人でも、後詰に、控えているんだ。いまどき、武士面にびくついて、泣き寝入りをするような、半間な長脇差は江戸にゃあいねえぞっ」

口をあわせて、禿安が、

「てへッ、ただはおかんと、すさまじいや、汝の屋敷じゃあ、賭場あらしをして、金を蓄めたか」

八十三郎は、蒼白になった。

「証拠でもあって申すか」

「おおっ、これを見ろ」

と、眼ッかちが、あの後で、山で見つけた錆十手を出して云った。

「土肥と彫ってある十手が証拠だ。こいつを持って、御用呼ばわりした野郎は、たしかに、庄次郎というここの長男。あいつを出せっ」

「兄は、四、五日前から家に戻らん」

「ぐるになっていやがる。じゃあ、その時の賭場銭をそろえて、土肥半蔵が、手をついて謝れ」

「左様なことはできん」

「できねえと。オイ、青蕪。じゃあ、これを証拠に、一ツ橋へ行くぞ」

「勝手にいたせ」

「いよいよ、父子共謀だ。よしっ、もう銭は要らねえ、みんな! 腹癒せをしろ」