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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

蓮根

一

しかしその中に、お蔦は見出されなかった。

「やあ、土肥の伜じゃねえか」

ひょいと見ると、渡舟を降りる客の中に、眼ッかちと、禿安の顔があった。ほかにも、闘鶏師の仲間がいるらしい。あいつだ、と指さして、土手を駈け上がってきた。

蓮根

一

「見つけたっ」

闘鶏師の仲間は四人だった。

逃げようにも三囲の土手で見通しである。あっとまごついている間に庄次郎は取り巻かれていた。しかし、とにかく相手を侍と見て、彼らもにわかに飛びついてくるような喧嘩下手はやらない。皮を剥くように二の腕の刺青をたくし上げて、

「野郎っ」

ふくんだ底力でまず姿勢を揃えたうちの一人が云う。どれもこれも商売がら軍鶏に似て鋭い眼つきをしている。殺気はそれだけでも十分に庄次郎の胆を寒からしめた。庄次郎は、どうしようかと思った。

「やい、俺たちの面を、まさか忘れやしめえな」

突き出した禿安の顔へ、庄次郎は蒼ざめたかぶりを振った。

「知らん。何か……人違いだろう」

「ふざけるなッ!」

と云う声は横から来た拳と一緒だった。庄次郎の鬢を外れて前へのめッて行く。その腰ぐるまを無意識に彼の足が蹴飛ばした。

どぼん――と河の中から今の男が土手へ飛沫を送って、不覚な声を泡と一緒に揚げていた。