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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

吉川英治『三国志(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:三国志、三国志、三国志。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 309,839 字 · 622 页

青空文庫

しきりに首をひねっていたが、まだ思い出せない容子だった。

戦地といっても、さすが漢朝の征旗を奉じてきている軍の本営だけに、将軍の室は、大きな寺院の中央を占め、境内から四門の外郭一帯にかけて、駐屯している兵馬の勢威は物々しいものであった。

「はっ。――確かに、劉備玄徳と仰っしゃって、将軍にお目にかかりたいと申して来ました」

外門から取次いできた一人の兵はそういって、盧将軍の前に、直立の姿勢をとっていた。

「一人か」

「いいえ、五百人も連れてであります」

「五百人」

唖然とした顔つきで、

「じゃあ、その玄徳とやらは、そんなにも自分の手勢をつれて来たのか」

「さようです。関羽、張飛、という二名の部将を従えて、お若いようですが、立派な人物です」

「はてなあ?」

なおさら、思い当らない容子であったが、取次ぎの兵が、

「申し残しました。その仁は、県楼桑村の者で、将軍がそこに隠遁されていた時代に、読み書きのお教えをうけたことがあるとかいっておりました」

「ああ! では蓆売りの劉少年かもしれない。いや、そういえば、あれからもう十年以上も経っておるから、よい若人になっている年頃だろう」