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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

壬生浪のごとき、無教養ではあるまい。一議論、試みようではないか」

「よせよせ、今は、議論の時代じゃない。何もかも、力行実践の時だ」

「しかし、クヮイズ侍が、どれほど陳腐な頭なりや、西瓜ではないが、叩いて中実を試みるのも一興だぞ」

「何の、東北の熊襲に、味噌も見識もあるものか。彼らも、力行実践でやって来たのだろう、そのときに、吾々も、一剣をもって酬えば足る」

ほお歯の下駄を踏み鳴らして、町も狭しと歩いて行くのである。

それを、旅舎の二階から、会津の家臣らしい首が四ツ五ツ歯ぎしりして見送っている。――ふと立ちどまって眺めていた露八ですら、胸がむかついて、ゆるせない気もちがした、追いかけて行って、撫斬りにしてやったら、さだめし、生姜で冷酒を飲んだように、さっぱりするだろうにと空想した。

(弟にゃ、こんな気持はしねえのかしら)

露八は、ふしぎに思った。

八十三郎も、江戸で生まれ、江戸で育ち、自分と同じ環境の中から出たのに、その弟が、やはり今のような連中の仲間かと思うと、理屈はどうあっても、嫌な気がした。

のみならず、父の死を聞いても、一向それによって動ずる容子もなく、冷然としていたこの間の顔つきなども、気にくわないものであった。