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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
いつもよりはひどく髪がこわれていて、その香に不純なものが交じっていると疑われてもしかたがないほどだった。
晩の寒空に、眼に沁みる葱を刻んで、自分で水づかいしてこさえた膳を、露八は、睨みつけていた。
「ば、ばかに、すんな! あんまり、男を踏みつけに、するなよっ」
「…………」
お蔦は、膳にかぶせてある布巾をとらなかった。茶棚の湯のみ茶碗をとって、がぼ、がぼ、熱いのを注いで一息にのんだ。
そして、くろもじで、白い歯をせせりながら、
「お前さんも、男なみの、啖呵だけは切るんだね」
「なんだと」
炭籠の火箸をつかむと、
「打つ気?」
お蔦は、向き直った。
「たのむよ、あたしゃあ、頼むから、男らしく、打っておくれよ。そしたら、ひょっとして、もいちどお前さんに惚れ直すことができるかも知れない。――さあお打ち」
横向きに、肩を示した。
「どうしたのさ、お前さん、だから私ゃあ、露八ってえ男に、つくづく、生欠伸が出てしまうだろうじゃないか。――それにひきかえて、このごろの座敷の客のおもしろさ、みんな、生きてる人間だよ、ぴちぴちしたお侍だよ、江戸生まれの私も、宗旨変えして、勤王方の肩持ちになりたくなる。