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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

子どもは、抛り出されて、ひーッと泣く。

「ま、ま、まだ怒ってんのか、てめえは」

「あたりまえだよ」

「四日目だぜ」

「もう、この腹は、一生涯立ったきりだよ。あいそも、こそも、尽き果てたのさ」

「今に、その悪い血の道が、冷めるだろうと、俺あ、壁隣りから、おめえの顔も見ずに、怺えているんじゃないか。よそうよ、なあ、夫婦喧嘩は、犬も喰わねえ」

「よしとくれっ、触ると、承知しないからっ――」

「あれ? ……」

「女房に、これほど、云われたら、去り状以上だよ。馬鹿におしでないよ、独り者の女の家へ潜り込んで、父無し子をあやしていれやあ世話はないや」

「やいっ、何を、勘ちがいして――」

「妬いてると思うのかい。あんまり、お背負いでないよ。……ふふん……女按摩ぐらいが、おまえにゃあ、ちょうどいいんだろう。もう、私の家の雑巾なんぞは、持たないでおくれ」

耳朶を真っ紅にして、お蔦は、外へ出て行った。すぐ、隣家の格子が鳴り、がたぴしと、壁越しに、箪笥の鐶の音があらっぽく聞こえてくる。

「よし、よし、よし……。泣くない、泣くない」

露八は、怯えた子どもを抱き上げて、ぐるぐると、六畳のまわりをまわっていた。