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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

閉めて、錠をかけて、部将は、去ってしまった。七人ほどの兵が、顔を見あわせて、ぼんやりと、そこに立ち残っている。しばらく、自失している態であった。百姓や町人の応募兵とみえて、その顔は、みんな土気いろになっていた。水洟の垂れるのも知覚しないで、おののいているのもあるし、もう死の坑をのぞいているように、小鼻を白くして、涙のすじを描いている顔もある。

人間の運命とは、まったく闇の手さぐりに等しい。露八は呆っ気にとられながらしみじみと感心した。

たった今、干鯣と酒を手にもって、天下国家を論じていたのかも知れない七人である。それが、同じ人間のたった一喝で、こうなってしまうのだから、情けない。

稲荷町には、通った情婦もあるだろう。何国か知らないが故郷には息子の月の給料を待っている老父母があるかもしれない。また、奇兵隊の雑兵から身を起こして、未来の国士を夢みていたのも、この壮丁の中には一人や二人あるはずだ。

「気の毒だなあ」

露八は、自分の気の毒さを忘れて、隅の方から、のろと、立った。

「兵隊さん」

「?」

土気色に、たるんでいる七つの首が、びくとしたように、彼の方を向いた。