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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

わけて馬関の色街は、彼や山県狂介や、伊藤俊輔などのために、夜ごとの不夜城をつくっているかにみえた。

「池田っ」

「はっ」

駕を囲んで尾いて来る供のうちから、一人が答えた。

「今、わしの膝へ、小蒲団を着せた女の」

「はい」

「あれや、江戸のことばだった」

「そうです」

「何という芸妓か」

「お蔦――とか聞きました」

「蔦。……わしの席へ来たことがあるか」

「あるはずです」

「覚えんのう。色っぽい年増じゃ」

「色っぽいはずです。その方では、強か者の河合氏すら、もう、参っているくらいで」

「ふウむ、伍長の河合忠太郎がか。……いつも、はやい奴じゃな」

関門屯所の柵門の前で、駕を降りた。すぐ、役宅へ入って、誰彼を招いて、夜半の時間や、警衛の諜ち合せだった。

国賓の五卿は、休息がすむと、今夜の十一字に、埠頭へもどる。艦の出帆は、それから一時間半の後――真夜中に馬関を発して、ここからはもうまっすぐに、大坂の安治川へ向かうという予定なのである。

協議がすむ。

時計を見て、桂は、茶をいっぷく喫んでいたが、

「こらっ、誰か来い」

「はっ」

隊士が、首を出した。

「何じゃ、最前から、あっちの部屋で、がやがやと、協議しとるのは」