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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
妓は、丹波の篠山生まれだという。顔が痩せているくせに、手が大きい。色恋ではつきあえないが、不愍をかけるというものは、やはり遊びの場合にでも、いくらか良心を救うらしい。
馬関で、桂がくれた金も、春日丸で五卿から頂戴した何百疋かのご下賜金も、このあわれっぽい丹波女に、みついでやろうと露八は思った。二日も、三日も、流連していた。
丹波女は、心配して、
「あんたさ、隊へ、帰るのじゃないのけ、五卿様のお行列さ、もう、よんべ、伏見街道さ発って、京都へ行かしゃったという噂だによ」
「おれに、隊なんぞ、あるもんか。千年万年帰らなくっても、文句を云ってくる奴はねえ」
「あれ、ま、この兵隊さ、嫌んだ人だ」
「正月まで、おめえの側にいてやろうじゃねえか」
「嫌だよう、こんな兵隊って、あるかまあ」
「うれしくねえのか」
「うれしくなんかねえさ。兵隊のくせして、うだうだ、おらの膝ッこばか寝ている男なんか、おら、嫌んだ気がするにな」
「じゃ、惚れた男でも」
「惚れた男なら、こんなこと、させてなど、なんでおくものずら、紅い襷させて、戦に出してやるによ」
「じゃ、俺には、惚れていないわけだな」
「あたりまえ」