轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
私が連れ添っているものは、昔と変わらないこれだけです」
と、被布の紐を解いて、帯の前をのぞかせた。帯にはなるほど、冷たい一管の笛ぶくろが、お菊ちゃんの清麗を保証するように差してあった。
「ま。お上がんなさい」
「上がってもいいの。お蔦さんとやらがいるんじゃないかえ」
「へへへ。そんなのがいるくらいなら、床の間に今戸焼の鍋釜を乗っけちゃあおきませんやね」
お菊ちゃんは、後ろを向いて、
「師匠――。お茶でもご馳走にならないか。露八さんを、知っている?」
「ぞんじません」
「じゃ、初対面だね。露八さん、この人は、吉原の金瓶大黒の身寄りで、桜川三孝という道楽者ですよ。上野の戦争の後、浜中屋のおっ母さんだの、芙雀だの、団十郎だのと、一緒くたに逃げて来て、ずるずるべったりに静岡で暮らしているんです」
お菊ちゃんの伝える消息によれば、この静岡には、露八の親類も友達も、その当時、みんな流れこんで来たらしい。徳川慶喜公は宝台院に謹慎中であるし、戊辰前に洋行したという噂のある渋沢栄一も帰朝して、一頃、静岡の紺屋町に商法会所を創立して頭取となっていたが今では新政府の官員になって東京に羽振りをきかせているという。