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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

「あやつ、馬関で、お蔦ちゅう芸妓の、間夫じゃった男でなか」

どやどやと、属吏たちが立って来て、

「この色情坊主」

「罰杯うけんちゅうなら、吾輩の股をくぐれ」

「杯洗でじゃ、杯洗でじゃ」

大座敷へ、引きずり戻された。三杯半までは飲んだが、もう一滴も入らない。すると、少壮の官員たちは、股を潜れと迫って、幾人もが並んで股をひろげた。

渋沢は、立って来て、酔っぱらいどもを宥めかけたが、興に乗った酔漢たちの耳には無駄事だった。露八もまた、その仲裁を頼みにはせず、素直に、犬のように四つン這いをして、

一の門――こぐった

二の門――こウぐった

三の門も――こウぐった

四十の坂で腰つくな

と子供時分の遊戯唄をうたいながら順々に股をくぐり抜けた。そして、俯向いたために、胃の腑から嘔吐しそうになる酒の悪酔いを怺えながら、

「あはははッ、あははは。……この方が楽だ、この方が楽だ」

と、笑い転けて、とめどもなく、また笑った。

夕波一刻

一

商売だ。仲間もいる。

露八は、気を張っていたので、三井や小野組の引揚げるまでは、とにかく席でつとめていた。

だが、もうすんだと思った途端に空座敷へ行って、ぶっ倒れていた。