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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

「二人で、ご神燈でもかけるのに。……だけど、これからだって」

「ああ」

横になって、手枕をかいながら、

「俺も、人間が、変わったなあ」

しみじみ、自分の姿へ、眼を落としていた。

と――階下で、

「いや、いるっ」

大声が聞こえた。

あわてた内儀さんが、何か言い訳するのを圧してがんがんと、響くのだった。

「確かにいることを、見届けてきたのだ。――荻江の三味線が、洩れていたのが証拠、それに下駄もあるっ。かくすと、承知せんぞッ」

「あっ、兄さんが」

お蔦は三味線を捨てた。

庄次郎は、刎ね起きて、

「健吉」

「そうですよ、健吉が妹へ買ってやった着物だの、髪の物だのを、私が、みんな七ツ屋へ運んでしまったから、怒って来たのかも知れない」

「そ、それは」

「あわてたって、しようがない。庄さん、度胸を、おつけなさいよ」

「つけて、どうする」

「勝手におしと、二人で、首を並べちまうのさ」

「いけねえ、榊原健吉とくると、俺は、苦手だ」

物干へ、逃げ出そうとすると、ど、ど、ど、とあらっぽい跫音が梯子段を躍って、

「逃げると、尻を斬るぞっ」

庄次郎は、物干の上へ、坐ってしまった。お蔦はと見ると、いちど捨てた三味線を膝へ拾って、