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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

「はい」

「それから、小梅村に借りていたおめえの世帯だが、若い奴を、見せにやったところが、闘鶏師の仲間が来て、竈の灰まで、きれいに、攫って行ったそうだぜ。三味線一挺ありゃあしねえって、若い奴が、帰って来た」

「なるほど……それは当然さもあるべきで、異存は云えぬ」

「たいそう、諦めがいいな」

「元々、拙者が悪いので」

「そう考えりゃあ、何事も、腹は立たねえ。じゃあ、ついでに、もう一つも、諦めてしまうこったなあ」

「もう一つとおっしゃるのは」

「女。――お蔦の方だ。おめえの事情を聞いて、俺も、気になるものだから、それとなく、髪結やら、河岸の者に、噂を探らせてみると、呆れた淫婦だ、沢村田之助に入れあげて、猿若町がハネると、代地の八重桐へ引き入れて、いい気になっているという話だが」

「ほんとであろうか」

「誰が……」

と、長次はそのムキな顔つきへ思わず笑って、

「どうする? ……諦めるなら綺麗がいいし、四ツに斬る気なら、つい川下流だ、舟でも、駕でも、出してやるが」

「…………」

庄次郎は、腕を拱んで、

「そんな女じゃないが」

「ははは。甘いね、土肥さん」

「考えておきます」

「考えてみなせえ。