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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
と、彼は静かに云った。
お豊の(吃驚した)表情に気づいた男たちは、幹太郎の声で振返った。振返って、幹太郎を認めたとたん、男の一人が「げっ」といって腰を浮かせ、その手から盃を落した。
「これはなに者なんだ」と、幹太郎がまた云った。
お豊は吃り、いま浮腰になった男を指さして、その手に持っている盃に気づき、慌てて盃を置き、坐り直しながら「三ちゃんよ」と云った。男は浮腰のまま、ぺこりとおじぎをしたが、いまにも逃げだしそうなようすだった。お豊は「三平さんよ」と云った。幹太郎には三平の記憶がなかった。彼はその男をみつめた。男はまたおじぎをし「その節はどうも」と口ごもった。
「ほら、四つ目にいたとき会ったでしょ」と、お豊が云った、「あのとき世話になった、あの三平さんよ」
幹太郎はようやく思いだした。しかし、世話になった、という意味はわからなかったし、そのときの怒りだけが、まず胸へ、つきあげてきた。お豊はもう一人の男を見て「それからこっちは、河内屋さんの番頭さんで松どんっていう人よ」と云った。
「帰してくれ」と、幹太郎はお豊に云った、「話すことがあるんだ、二人とも帰してくれ」