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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
三
「ほんとよ」と、お豊は云った、「あたしには、平手さんしかいやあしないの、そうでなくったって、誰があんなお爺さんの妾なんかになるもんですか」
「ずっと、世話になっていてもか」
「あの人の道楽なのよ」とお豊は、力なく笑って云った、「あたしが、あの人の稽古所へいったのは、からかい半分だったけれど、あの人は、あたしの声や三味線の手筋がいいって、それで身を立てるまで面倒をみよう、いやらしい気持はちっともないって、いまでも口癖のように云うのよ、――あたし、平手さんのほかには男なんて信用してやしないわ、だから河内屋の隠居だって同じことだと思ってたのよ」
それで、草津ゆきは拒みとおして来たのであるが、このごろになって、ふと気持が動き始めた。
――こっちが、しっかりしていればいい。
相手はとしよりだし、まさか手籠めにするようなこともないだろう。いっそ暫く閑静なところで養生してみようか。
――そうすれば、これまでのからだのよごれも浄められるかもしれない。
そう思うようになった。
「それでお別れに、平手さんに逢いたくなったの、あのときあんな義理の悪いことをしたから、怒って来ては下さらないかと思ったんだけれど……入口で声が聞えたとき、うれしくって、息が詰りそうだったわ」