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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

三

と、彼は云った、「どうしても辞任がやむを得ないとしたら、秋の総試合の済むまで待って下さい、総試合が済んでからならよろこんで辞任します」

どうかお願いします、と云って幹太郎は両手をついた。

頼母は暫く黙っていた。

三

頼母は黙って、あけてある障子の向うの、中庭のあたりを眺めていたが、やがて、扇子で袴の襞を撫でながら、静かな眼で幹太郎を見た。

「事情はよくわかったが、辞任の件はどうしようもない」と、頼母は云った、「そこもとが不承知なら、こちらから解任することになると思う」

「では、総試合までというお願いもだめですか」と、幹太郎は訊いた。柴田頼母はそれには答えずに、また中庭のほうへ眼をそらした。

――よせ、卑屈になるな、幹太郎は自分に云った。

彼は自分が『歎願』しそうだということを感じた。淵辺の道場を逐われたあと、飢えて巷を放浪したときの、野良犬のような姿が頭にうかび、故郷で僅かな仕送りを待っている、母や妹たちの顔が見えるようであった。いま扶持に放れることはできない。なんとかこの扶持を放さずにいたい。そういう願望が、危なく口をついて出かかったのである。

「ではこれで――」