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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

五

を訊こうとしていると、うしろから名を呼ばれた。振返ってみると秋田平八であった。

「ようやく来る気になったね」

平八は不自由な片足を曳き曳き、明るく笑いながら、こっちへ近づいて来た。

「いい話があるんだ、待ってたんだよ」

五

幹太郎は夜の十時を過ぎてから亀戸へ戻った。

もう『島屋』は寝ていた。

表も雨戸が閉っているし、脇の勝手口へゆく木戸にも鍵が掛っていた。道のまん中へ出て見あげたが、二階も戸が閉っていて、客のいるらしいけはいもなく、しんかんと寝しずまっていた。

彼はまた軒先へはいり、雨戸を静かに叩いた。

――おうよちよちと爪で戸を叩き

川柳点にそういう句がある。

夜半に乳貰いにいった父親が、赤児をあやしながら、時刻がおそいので寝ている先方に遠慮をし、拳ではなく、指の爪先でそっと戸を叩くというのであろう。――その哀しい姿を幹太郎はいま自分の身にひき比べ、やりきれなくなって乱暴に叩き続けた。

やがて家の中で返辞が聞え、戸の隙間から灯の色が見えた。

「平手だ、平手幹太郎だ」彼は殆んどどなった。

くぐりがあいて「どうぞ」という、お杉の声がした。彼女はまだちゃんと着物を着ていたし、その息は酒臭かった。