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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
二
お豊も自分のしたことに自分で驚いたらしい、眼をみはり、口をあけ、硬ばって蒼くなった自分の頬を(いま幹太郎を打った手で)ぐっと押えながら、喘いだ。
「可哀そうなやつだ」
幹太郎は口の中で呟き、脇へ身をよけながら「さあ」と手を振った。
お豊は顔をそむけて逃げるように出ていった。
二
幹太郎は惘然とそこへ坐った。
――お豊は戻って来るだろう。
彼はそう思った。
食い荒し、飲み荒した三つの膳が、蝋燭の短くなった燭台と、行灯の光の下で、彼をあざけり笑っているようにみえた。
幹太郎は眼をそらした。
すると、部屋の隅に新しい茶箪笥があるのをみつけた。このまえには、古道具屋で買った鼠不入があったのに、いまそこにあるのは、桑材らしいしゃれた茶箪笥である。
「どうしたんだ」
幹太郎はそう呟いて、立とうとして、まだ左手に刀を持っていたことに気づき、刀を置いて立ちあがった。
彼は家の中を見てまわった。
納戸に見馴れない着物が二枚、袖だたみにもせず、脱いだなりまるめて突込んであった。一枚は上布、一枚は鳴海絞り、どちらも新しいし、安い品ではないようである。ほかにはこれといって眼につく物もなかったが、勝手へいってみると、けんどんや岡持や、皿小鉢、丼、酒徳利などが乱雑につくねてあり、板の間の上に、勘定書が四五枚もちらばっていた。