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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

六

と、幹太郎は云った、「だが、お静さんというのは誰だ」

「近所の人、平手さんの知らない人よ」

そのとき勝手口で「お待ち遠さま」という声がし、お豊が活溌に立っていった。

勝手で器物の音がし、お豊がなにか囁くのが聞えた。幹太郎は溜息をついた。なにか自分の力に余るものを背負いでもしたような、重くるしさと、だるいような感じにおそわれたのであった。

お豊は幸坊を呼び、膳を二つ出して、そこへ酒と肴を(勝手から運んで)並べた。刺身があり汁椀があり、塩焼、甘煮、香の物まであった。長火鉢の火をかきおこして、酒の燗をつけながら、

「今夜はあたしが、お祝いしてあげるのよ、今夜だけ飲んでね」と、幹太郎にせがんだ。

「あたしも酔うわ」と、お豊はみだらな眼つきで、幹太郎を斜交いに見ながら云った、「酔ってあんたを困らしてあげるわ、今夜こそあんたを困らしてあげる、いいこと、覚悟してちょうだい」

幹太郎は眩しそうに眼をそらした。

六

幹太郎はその夜はじめて、金杉の家に泊った。

仙台屋敷は門限が厳しいのと、お豊にせがまれて、盃に三つほど飲んだ酒に酔ったのとで、つい動くのが億劫になり、休暇が三日あるのを幸い、泊る気になったのであった。