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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
二
人の蔭口だからよくわからないが「老職の若い妻と重四郎が密通している」という噂がある、と久三郎は云った。その若い妻というのは、良人と三十も年が違い、これまでにもしばしば、いやな評判があった。いつかの(幹太郎が仕止めた)菱川なにがしの刃傷沙汰もそれが原因で、重四郎はおそらくその女に誘惑されたのだろうと思う、と久三郎は語った。
幹太郎はぐっと唇を噛んだ。
二
久三郎が帰ったあと、幹太郎は縁側へ出て、ながいこと、もの思いに耽った。
ときどき団扇を動かすのが、いかにも重たく、もの憂げであった。
――野口が重職の妻と密通している。
本当だろうか、と幹太郎は、まだ信じかねる気持で、暗い庭の向うへ眼をやった。
武家屋敷の生活は規矩がきびしく、男女のつきあいなどには、特に厳重な制約があった。もちろん厳重な制約があればあるほど、お互いに惹きあう気持は激しくなるだろうし、どんなに、厳重に結った垣にも、必ずぬけ出る隙はあるものだ。
――事実とすれば、捨ててはおけない。
白川久三郎は重職の若い妻だというだけで、その姓も名も云わなかった。
だが、重四郎との不倫は、かなり評判になっているというし、相手の女は淫奔らしい。