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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

二

くそ、このあま、と三平の逆上した声が聞え、幸坊が、

「危ない、逃げなよねえちゃん」という叫びに続いて、平手打ちでもくれたらしい高い音とお豊の「ひっ」という悲鳴が起こった。

「畜生、殴りゃあがったな」

「ぶち殺してくれるぞ」

殺してみろ、と叫びながら、お豊が、六畳へとびこんで来た。

幹太郎は夜具の上に半身を起こしていたが、お豊はとびこんで来るなり、壁際にあった彼の脇差を取って、それを抜こうとした。幹太郎は、はね起きて「ばかなことをするな」と云い、お豊を抱き止めて脇差を取り返した。

「あいつあたしを打ちゃあがった」

お豊は身をもがいた。

「放して、あいつを殺してやるんだ、その刀を貸して」

「なんだ、――」と、あいている襖から三平がこっちを覗き、毒々しい口ぶりで嘲笑した。

「なんだ、あのゆき倒れはまだいたのか」

幹太郎は脇差を持ち直した。

二

三平はうしろへとび退いた。

幹太郎が脇差を持ち直すのを見て、ぱっと四畳半のほうへとび退いたが、怖れているようすはなかった。それは、つい七日まえにも同じような事があり、難なく勝った経験があるからだろう。三平は右腕の袖を捲って、拳骨を突きだしながら喚いた。