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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

四

」

「神田の旅籠町におれの知った家がある、そこへいっていないか」

「有難う、しかしなんとかやってみる」

「旅籠町の山源と聞けばわかる、おれと同郷の出で小さいが料理茶屋をやっているんだ、ひとまずそこへおちつかないか」と、平八が云った。

「先生が笠間へ帰省したら、自分もすぐ山源へゆく、そこでよく相談をしよう」と、平八は云った。

「そうするかもしれない」と、幹太郎は云った。

「いろいろ有難う、ではこの荷物を頼む」

「短気を起こさないでくれ」

「そうしよう」

幹太郎は顔をそむけ、「送らないでくれ」と云って、部屋を出ていった。

外へ出ると雨が降っていた。まだ降りだしたばかりらしい。こまかな弱い降りで、人どおりの絶えた、暗い麹町の往来を、ひっそりと濡らしていた。

「お母さん――」

幹太郎はそう云って立停った。

彼の喉へ嗚咽がこみあげてきた。

四

幹太郎は空家の軒下に立っていた。

日昏れ刻で、みぞれが降っていた。さっきまで雨だったのが、いまは小さな白いものが混っている。鼠色の雲に掩われた空から、それはまっすぐに降って来て、板葺のはしゃいだ屋根を叩き、すっかり朽ち割れている庇を叩いた。