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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

三

生麻の帷子に袴、黒い紗の羽折をかさね、右手に刀を持っていた。肉の厚いひき緊った体つきも、眉が濃く、額が高く、穏やかではあるがするどい光をたたえた眼つきなどにも、際立って高い風格があらわれていた。

幹太郎は、伊勢万作に稽古をつけていた。そのため、その侍のはいって来たことは気づかなかったが、気がつくと同時に、それが千葉周作だということを直覚した。

「おい、伊勢――」と、幹太郎はすばやく囁いた、「お玉ヶ池の先生だぞ」

三

――お玉ヶ池の先生。

千葉周作と聞いて、伊勢万作もはっとし、まわりこみながら、すばやくそっちを見、そして幹太郎に頷いた。

「今日はあの技を使うな」と、幹太郎は囁いた、「みんなにもそう云ってくれ、それから、向うで言葉をかけぬ限り、知らぬつもりでやるんだ」

万作は頷いた。

幹太郎は昂奮する気持を抑え、平生どおりの稽古をしようと努めた。しかし、当代第一流の剣士に見られているという意識からはぬけることができず、ついすると衒気が出そうになり、緊張のあまり冷汗がながれた。

――こんな筈ではなかった、と、彼は唇を噛んだ、――まだ未熟なんだな。

万作は次つぎと相手を変えながら、幹太郎の意を伝えたらしい。