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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

五

お豊のは向う側にあるが、彼女は座蒲団が嫌いで、自分のがあっても敷いて坐ったことはなかった。

「誰か来ていたのか」と、幹太郎が訊いた。

「いいえ、どうして」と、お豊は振向いた。

きれいに澄んだ眸にも、薄く化粧をした顔つきにも、なにか隠しているような感じはまったくなかった、幹太郎は「いやなんでもない」と首を振り「夜になってから幸坊を外で遊ばせないほうがいいな」と云った。ええ、そういって叱るんですけれど、と、お豊が茶の支度をしながら云った。この辺は九時ごろまで子供を外で遊ばせるから、幸坊だけ云ってもなかなかきかない。「それでもこっちへ来てからよくなったほうよ」と云った。

幹太郎は正師範になったことを話した。

「まあ――」と、お豊は眼をみはった。

「すごいじゃないの、一と月に二十五両も下さるの」

「一と月じゃない一年にだ」

「一年に――」と、お豊はがっかりしたような顔をした。

五

幹太郎はちがった意味で失望しながら、「月づきの手当が、べつに少し出るらしい」と云った。

「もちろん、たいしたことではないだろうがね、しかし、それだけあれば、僅かずつでも、故郷へ送ることができると思う」