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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

四

「それでいい、道中の無事を祈っているよ」

お豊は頷いて頭を垂れた。

お玉ヶ池へ帰った深喜は、いつものとおり夜半に道場へ出て、独りで技のくふうを始めたが、少しも精神が集中せず、ともすると木剣を構えたまま、――草津へ旅立ってゆく、お豊や、幸助の姿をそっと眼の裏に描いてみるのであった。

四

お豊が草津へ立ってからまもなく、秋田平八が道場へ訪ねて来て思いもよらない告白をした。

その日、彼はいやな話を聞いた。

――井上さんが、伊達家の招待試合に、千葉道場の代表として出る。

江戸在住の定評ある剣士を招いて、伊達家(宇和島十万石)の上屋敷で試合が行われる。こういう催しは、藩士はもちろん、その知縁の諸侯も出席するので、剣士たちには、師範に招かれたり、家臣として召抱えられたりする機会が、しばしばあった。

――どうして、おれではいけないんだ。

と深喜は思った。

井上八郎は、すでに出稽古先を二家も持っていた。井上だけではない、塚田孔平も、稲垣定之助も、庄司、大羽など、上位者のほとんどがそうであった。道場の門人だけを教えるのは、千葉栄次郎と深喜くらいである。

――栄次郎どのは、道場の後継者だからさもあろうが、自分が(いつも)選に漏れるのはどういうわけか。