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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

当代屈指の剣士から『非凡な質だ』と認められたのだ。大名の下屋敷の師範などで、いい気になっている年ではない。親きょうだいに仕送りしたり、お豊の面倒をみたりすることは、平手幹太郎自身にとって第一義ではないんだ。

「そうだ、こんな、なまぬるいことをしていて、第一流の剣士になれる筈がない。飢えることなどは問題ではないじゃないか、この道を極めることが困難だということは、初めからわかっていた筈だぞ」

彼はそう呟いて、力づよく額をあげた。

幹太郎はその足で道場へゆき、稽古を中止させて「自分が辞任する」ことを話し、なお、秋の総試合をしっかりやるように、と激励した。かれらも辞任のことは聞いていたのだろう。かくべつ驚いたようすはなく、ただ(いかにも気の毒そうに)黙って頭をさげていた。

「本邸から私の代りが来るそうだが」と、幹太郎は云った、「試合には、これまで私の教えた技をくふうするほうがいいと思う、伊勢と上村の二人は頼みにしていい、みんなが立派にやってくれるものと信じている」

そして、上村弥兵衛と伊勢万作とに、「頼む」と云った。二人は頷いたが、二人とも、幹太郎の顔を見ようとはしなかった。