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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
と深喜は答えた。
「なにがやむを得なかった」
「明らかに道場やぶりに来たようでしたし、海保さんたち三人が負けたものですから、道場の名聞のためにどうしても勝たなければならなかったのです」
「私は技を使うなと云ってある」
「それは、――他流との試合だからいいと思いました」
深喜はそう答えた。
周作は黙って、ややしばらく深喜の顔をみつめ、それから嘆息するように「わからないやつだ」と云った。
「おまえには、まだわが流儀の精神がわからないのだな」
深喜は頭を垂れた。
「海保ら三人もばかだが、おまえは未熟だ、おまえは本当に三人が負けたと思うのか」と、周作は云った。
思いがけない言葉なので、深喜は顔をあげて周作を見た。周作は続けた。
「かれらが試合をしたのはばかだが、負けたのはまだしもましだ、おまえには、それさえもわかっていない」
「お待ち下さい」と深喜が反問した、「私の眼には、海保さんも、井上、稲垣さんも負けたとしか見えませんでした、勝負は紛れのない、はっきりしたものだったと思うのですが」
「それは打つ打たれるの問題だ」
「しかし勝負は」
「私は打つ打たれるを問題にしてはいない、そんなことは少しも重要ではない、面籠手をつけた竹刀の勝負など、勝っても負けてもさしたることはないし、それは剣の道の末節にすぎない」