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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

と、帆平ははね起き、走っていって木剣を拾うと「もういちど来い」と喚いて、深喜のほうへゆこうとした。

そのとき「それまでだ」と云いながら、栄次郎が帆平の前へ出て来た。

うしろに塚田孔平と井上八郎がいた。

「しかし、若先生、いまのは勝負になっていません」と、帆平が云った、「私は酔っているものだから、足が滑って自分で転んだのです」

「ばかなことを云うな、いいからもうよせ」

「すると、若先生は私が平手に負けたと仰しゃるんですか」

「勝ち負けのことを云ってるんじゃない」と、栄次郎が云った、「酒に酔って暴言を吐いたり、人に木剣試合を強いたりするのも程度がある、けがのないうちやめろと忠告しているんだ」

「私が暴言を吐きましたか」

「その話は酔いがさめてからにしよう」と、栄次郎は云った。

井上が「平手、木剣をしまって来い」と云い、栄次郎のあとから塚田といっしょに去っていった。

「大義名分を知らぬ俗物ども」と、帆平がどなった、「天下は大きく動きだすぞ、沿岸には外国船が迫っている、夷狄はわが国土にいつ侵入して来るかわからない、国内は饑饉、政治は乱れ、民の心は幕府をはなれている、眼のある者なら大政を朝廷に還し、国内を統一し国土を挙げて外敵に当るべき時期だということがわかる筈だ」