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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

筆頭であり代師範である納屋孝之助とは、一本だけで終った。師範の淵辺十左衛門が「それまで」と宣告したので、決勝には至らなかったが、しかしその一本は、紛れのないもので、つまり、彼は第一位の成績をあげたのであった。

「もうよせ、たくさんだ」と、幹太郎はかれらに云った。

「まだわかりもしない順位のことなんか口にするな、林や殿井などはそんなことより自分のくふうが大切だろう、今日は二人ともいいところがなかったぞ」

かれらは黙った。かれらは幹太郎をよく知っていた。彼はいつもまじめであり、修行の鬼とでもいいたいくらい、すべてを刀法にうちこんでいる。後輩に対しても極めて謙遜であるが、こと刀法に関する限り、一言もゆるがせにしないというふうなので、どんなばあいでも不用意に云い返すようなことは決してしなかった。

「酒の席でも試合のことなんか云うなよ」

幹太郎はこう云って水をかぶった。

風はないが、十二月下旬の昏れがたで、寒さはきびしかった。彼は半※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)の水でなく、釣瓶で汲んで、ざっざっと肩から浴びた。五尺七寸たっぷりある、筋肉でこりこりした躯が、きびしい寒さのなかでみごとに水をはじき、たちまち、若い健康な血の色に染まった。