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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

といった。

こちらは六畳、隣りは四畳半、二た間きりの長屋の一軒で、お豊ひとりの住居だった。家の中にはなにもない、食事は必要に応じて、四つ目橋の袂にある『魚菊』からとりよせる。『魚菊』は仕出し魚屋と小料理を兼業し、店でも飲み食いをすることができた。

――もちろん幹太郎は、起きるようになってからそれを知ったので、そのときはまだなにも知らなかったのだが。

「ねえ、平手さん」と、また眠たそうな声で、お豊が云った。

「あんた、おなかすいたでしょ」

「そうでもない」

「いま起きるから待っててね」

「そうすいてもいないよ」

「もうお午ごろだわね」

そうっといって(夜具の中で)伸びをし、大きな声で欠伸をするのが聞えた。

七日まえ――

幹太郎は三平という男に叩き伏せられ、みぞれの降る路地で気を失った。飢えと疲れとで、まいっていたことも事実だが、そうでなくても、そんな喧嘩となると、道場で修行した剣法などは、さほど役にはたたなかったかもしれない。――刀を抜いたとたんにどぶ板を踏み割り、三平の頭突きを胸にくらった。

幹太郎は刀をとばされ、みぞれで濡れた土の上へ、仰むけざまに転倒し、そのまま気を失った。