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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

「ほっ、おめえ、それを抜く気か」

「いいから帰れ」

「それを抜く気かって訊いてるんだ」

「黙って帰れ」と、幹太郎は云った、「詳しいことは知らないが、この人はいやだと云っている、それで用は済んだ筈だ、一人暮しの娘を威して、力ずくでいうことをきかせようなどとは、男いっぴきのすることじゃあないだろう」

「やかましいや、食い詰めたあげくの行倒れが、洒落たことをぬかすな」

三平は、平べったい顔に嘲笑をうかべてどなると、突然、ふところへ手を入れて九寸五分を抜き、「出てうせろ」と喚いた。

「このお豊はおれの息のかかっている女だ、この家はおれが頼んで、河内屋の旦那から借りてやった家だ。おめえこそ、とっとと出てうせろ」

「なにを云やがる、この野良犬め」と、お豊がとびかかりそうにした。幹太郎はそれを引止め、うしろにかばいながら、「出てゆけばいいのか」と云った。三平は「出てゆけ」と喚き返した。

「けがのねえうちに出てゆくのが身のためだ、へんにきいたふうなまねをすると、生きてこの土地は出られねえぞ」

「お豊さん、ゆこう」

幹太郎はそう云って、脇差をそこに置き、壁に掛っている着物を取った。