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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
まるで病みあがりのように顔色が悪く、月代も髭も伸び、角張った顔の頬は、そいだようにこけていた。
「女を返せ」と、肥えたほうの若者が喚いた、「洒落たまねをすると、生かしちゃあおかねえぞ、うぬはいってえなんだ」
「そこをどけ」
と、もう一人がいった。
二人とも息せききっていて、はっはっと苦しそうに、喘ぎながらの叫びだから、凄みもなし、威しもきかなかった。幹太郎は刀を差している男に向って「貴方が本野という人か」と訊いた。男は「そうだ」と答えた。
「御浪人のようですね」と、また幹太郎が訊いた。
「要らぬ詮索だ」と、本野が叫んだ。
幹太郎は振返って、お豊と幸坊の姿が、見えないのをたしかめると、左手でぐっと刀をそらしながら、自分も浪人同様の身の上だ、侍と侍で話をしよう、と云った。
「この野郎なめるな」と、肥えた若者が喚いた。
おれは『てっぽう安』というちっとは顔を売った男だ、相手はおれだ、なめるな、とその若者は喚きたてた。幹太郎はちょっと見ただけで、また本野という浪人者に云った。
「私はあのお豊という娘に恩があるのです、それを三平という男が難題をふきかけるものだから、些か恩返しのつもりで伴れて出たのです」