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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

幹太郎は強引に顔を反らせた。

「お願い、お願いよ」と、お豊は喘ぎ、幹太郎の頬へ、額へと、ところ構わず唇を押しつけながら、手と足で彼を緊めつけ、そうして狂ったような声で囁いた。これが最後だから、あした別れてしまえば、この世で二度と会えないのだから、ねえ平手さん、ごしょう一生、たったいちど、お願いよ、とお豊は喘いだ。

「待て、それは思い違いだ」

幹太郎は彼女の両手を掴み、それを左右にひらいて押えつけると、半身を起こして彼女の上へ(暴れることのできないように)のしかかった。幸坊は身動きもしなかった。おそらく眼をさましているのだろうが、じっと蒲団にくるまったまま息をひそめていた。

「よくお聞き、お豊、私はおまえたちと別れやしない、そんなことはないんだ」と、彼は喘ぎながらいった。

「それは、いっしょに住むことはできない、私は下屋敷のお小屋に寝泊りをする、けれども、半月にいちどずつは、泊りに帰るんだ」

硬く緊張していた、お豊の躯から、そのときすっと、力のぬけてゆくのが、感じられた。

「私は支度金の中から、おまえたち二人の住む家を借りる、それまでは、さっき話した友達の、知り合いの家に置いてもらうことにして来た、わかるか」