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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
という知らせだった。
「すぐにですか」
「だと思いますね」と、久三郎が云った、「よろしければ、私が案内します」
「では暫く」
幹太郎は戻って、平八にその旨を告げ「待っていてくれ」と云った。いいとも、と平八は頷いた。いまの件についてだな。うん、たぶんそうだろうと云いながら、幹太郎は納戸から袴を出してはいた。
「遠藤とはどういう人だ」
「この下屋敷の年寄役だ、名は帯刀と云って、なかなか頑固でむずかしいじいさんだよ」
「いい話に相違ないぞ」
「どうだかな」
幹太郎は顔をそむけた。
平八も口をつぐんだ。去年十二月の「おさめ試合」のときのことを思いだしたのである。幹太郎が筆頭代師範まで勝ちぬいて、まちがいなく出頭と思い「おめでとう」と祝った。幹太郎も「捕らぬ狸の皮算用はよそう」といいながら、むろんそれを期待していた。ところが実際はまったく逆で、彼は淵辺道場を追われる結果になった。いま平八が「いい話だぞ」と云ったとき、幹太郎もそれを思いだしたのであろう。顔をそむけた彼の態度で、平八もそのことに気づき、なにやら悪い前兆のように感じて、口をつぐんだのであった。
出て行った幹太郎は、四半刻(三十分)あまりで戻った。