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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

さんにしてくれとか、一生お側にいたいなんて思やしない、――ただ、いっしょにいられるうちだけ、こうして逢えるあいだだけでいいから」

「その考えは違う、それは違うぞ」と、幹太郎は云った、「おまえの身の上のことはよく知らないが、人間は生れや育ちは問題じゃない、そんなことをいえば、おれだって田舎の貧乏郷士の伜だし、豊臣秀吉という人は、水呑み百姓から太閤殿下といわれるまでになった、生れや育ちよりも、いまなにをするか、これからなにをしようとしているか、ということが大事なのだ、よく聞いてくれお豊、おれも若いしおまえも若い、おれたちはこれからの人間だ」

「わかったわ、もうなんにも云わないで」と、お豊が云った、「ただ一つだけ聞かせてちょうだい、平手さんはお豊が好きなの、それとも嫌いなの」

「好きだよ」

「ほんとのことを聞かして」

「好きだよ」と、幹太郎は声を強め、「だからお豊に、良い娘になってもらいたいんだ」と云った。

「ありがと、うれしいわ」と、お豊は云った、「本当に好きだと云ってもらえるなら、あたし、それだけで本望よ」

そう云って、まるでうたうように泣きつづけた。

――幹太郎は憫然と、天床を見あげていた。