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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
本気です、と重四郎は答えた。
この問答のあいだ、彼は頭を垂れたままで、いちども幹太郎を見ようとしなかった。
「理由も云えないのか」と、幹太郎が云った。
重四郎は両手をついて「どうかおゆるし下さい」と云い、低頭して立ちあがった。
――尋常なことではないな。
去ってゆく重四郎の、うしろ姿を見送りながら、幹太郎は大きく溜息をついた。
夕食のあとで、白川久三郎が碁を打ちに来た。道場の監事である彼は、幹太郎より三歳年上で、妻と二人の子があり、酒も強く、つきあいのひろい男であった。碁を二局打ったあと、幹太郎は六兵衛に酒の支度を命じた。久三郎が碁を打ちに来る目的の半分は『酒』にあるらしい、三人の妻子を抱えていては、なかなか酒まで手がまわらない、などとよく云うので、彼が来れば酒を出すようにしていたのであった。
燗徳利が三本あいたころ、幹太郎はふと思いついて、重四郎のことを訊いてみた。
久三郎は「へえ」とけげんそうな顔をし、それから、急にぐったりしたような声で、「するとやっぱり事実ですかな」と云った。
「なにか仔細があるんですか」
「いやな話でしてね、――」と、久三郎は渋い顔をした。