Japanische Klassiker mit Furigana
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こどうひゃくわ
胡堂百話
野村 胡堂
Lesen Sie 胡堂百話 (こどうひゃくわ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 124.386 Zeichen · 248 Bildschirme
それは、黄楊の一寸角ほどの、何の奇もない武骨なものだが、彫ってある文句がおもしろい。
「この本、何方へ御用立て候とも、御用済の上は、左記名宛に御返戻あらんことを乞う。紫波郡大巻村野村長四郎」
事務的といえば、事務的だが、草書体の文字は、なかなかの達筆で、彫りも深くて美しい。
私が、物ごころつくかつかないかのころ、土蔵の二階へ立てこもって、夢中で読んだ太閤記や水滸伝に、思えばこの印が捺してあったのだ。
私が、あんまり読みすぎて、学校の勉強をしないものだから、父親は、ついに決心してやわらかい本を残らず処分してしまった。大風呂敷にごっそり包んで、背中へ載せた古本屋を、私は、はだしで追いかけて、北上川の渡船場で、地団太踏んで泣きわめいた。あの日、川霧の向うへ消えて行った数々の本にもこの蔵書印が捺してあったに違いない。
私は、東京へ持って帰って、今も机の二番目の引出しにある。書体も文句もこの通り真似て、名前だけ変えたのを作らせようとも思ったが、父親があの世から叱りそうなのでやめた。
結局、印よりも自分自身である。どんな貴重な本にでも、淡々として蔵書印が捺せるのは、人間的の生長を待つほかはない。