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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页

青空文庫

二

「何日、江戸へ来たんですか」

「二月ほど前」

「そんなに前から? ……」

「お養母さんは、達者か」

「達者で困るくらい」

「お前は、痩せたなあ」

「そう、癆咳だから……」

と、お菊ちゃんは澄まして云った。

二

「何しに江戸へ来たんですか」

お菊ちゃんの質問に、

「お供をして――」

と、桂が云うと、

「誰のお供?」

「知らんのか。江戸の女は、啖呵は切るが、時勢には暗いな」

「ええ、どうせ左様でございますよ」

「京都の女なら、芸妓、仲居までが、攘夷とは、どんなものか。京洛には、今誰が来ているか、政変や、大官の往来などにも、関心を持って、多少社会の推移ぐらいは、分からぬながらも考えているが、江戸の人間と来てはいやはや……」

お菊ちゃんは、耳の穴へ、指をかって、

「関東の棚下ろしはもう沢山」

「ははは、負けん気ばかりは持っている」

「憎らしい人たち。――露八さん、何とか云っておやんなさいよ」

露八は、考え込んでいた坊主頭を上げて、

「云い分はありません。まったくです。江戸の女も、江戸の男も、いけないなあ」

「あれ、お前さんまで、そんなことを云ったひには、江戸方は、立つ瀬がないじゃないか。口惜しいね。