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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
「サンデー毎日」1934(昭和9)年6月3日~10月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 页
「お若いし、お兄上様よりは、強いご気質なので、重助も、お傅に、手を焼きまする」
「わしが、申し置いたといえ。――ところで、庄次郎は、どうした。今朝はまだ、顔を見せんではないか」
「頭が痛いとおっしゃって、今日は、蚊帳を取るなと――」
「あれも、風邪か」
「では、ないようで」
「八十三郎と違い、あの方は、ぐんと、頑丈な質だ。それに、昨日の容子も、まだわしに聞かせん。起こして来い」
弓掛を外して、縁側で、手刻みの荒い葉を煙管につめていると、
「やあ、お早いのう」
親戚の小林鉄之丞が訪ねて来た。だらだら坂で、汗をかいたとみえ、少し息を喘って、
「ご日課か」
「ははは。下手弓をな」
「鳶の子に、鷹は生まれんというが、生まれることもあるの」
「どうして」
「下手弓の子が、きのう、藩の入江道場では、模範と称えられ、年齢としては早くもないが、免許皆伝をうけ、めでとう、卒業したというではないか」
「ほ。そうか」
半蔵の顔は、欣びで、皺だらけになった。
「そうか――と云って、其許は知らんのか」
「まだ、聞かせてもくれぬ」
「そこが、床しい。鈍じゃ、鈍じゃ、と其許はよく、庄次郎を叱りおったが、やはり、見どころがあった。